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[後記] 『ケペル木村とオオタマルのブラジル音楽おもしろ講座 ~ ジョアン・ジルベルト ~』

とつぜんの初夏のような陽気で、桜もびっくりしていきなり五分咲きまで開いてしまったようです。そんな春の日でした。

音響のチェックと食材の準備があるので少し早めで、開場の一時間半ほど前にはマデイラに到着してしました。



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硝子に囲まれた響きのよい空間。。陽だまりの中でしばらく生音でギターを爪弾きながら、今日は何を演奏しようかなどと考えていると、ケペルさんが到着。2人で会の進行などを簡単に打ち合わせしたあと、音響のセッティングなど始めました。



最初は、ジョアン・ジルベルトが来日した際に、宿泊していたホテルの部屋でも愛用していたという円筒形の《波動スピーカー》なる物から音を出して見ました。いやみのない自然な音なのですが、いま少し音が遠いというか物足りなさを感じたので、いつも通りのPAシステムが繋がっているJBLの大型スピーカから音を出すことにしました。

PAのシステムであるにもかかわらず、音像が大味にならず細部までかなり細やかに再生されています。聴いていて実に生々しくそれでいて心地がよい。場所の響きと再生機の性能の効果でしょうか。快適な音でいろいろな音源を試して聞いているうちに、ケペルさんがコクリコクリと。。(笑) 選曲や食材の準備etc..で夕べはあまりお休みになれなかったのでしょうか?本当におつかれさまですm(_ _)m



スピーカーからは2003年の東京国際フォーラムでの演奏音源が流れていました。他のライヴ録音と比較して、とても角のとれた音質で録音されています。まろやかな響きです。そして、会場に5千人もの観客が同席しているとは到底思えないほど静か。故 黒田恭一さんが《近年では貴重になってしまった"黄金の静寂"》と形容していますが、聴衆5千人がジョアン・ジルベルトの 《声とギター》 の一点に集中している様子が想像出来ます。当時実際にコンサート会場の客席にいらしたケペルさんに、客席の10列目位までの音の感じを思い出して貰って、オーディオの音量、音質などを決めました。


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Kibe(キビ) 製作中のケペル氏



本日のおつまみである、ブラジル料理の Kibe(キビ) を油で揚げて準備していると大皿一枚分ほど出来上がった頃から参加者の皆さんがぞろぞろと到着。定刻を少し廻ったところで会を始めることにしました。


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BGMで流しておいた2003年の東京公演のおかげで、会場内には例の『平和的なもの』(別記事を参照→こちら)がすでに充満しています。



まず、ケペルさんからジョアン・ジルベルトがジョビンやヴィニシウスと出会っていなかったら、どんなだったろうか?という問題提起がされました。おそらく、そのままのこの演奏スタイルで、やはり既成のサンバの曲を演奏していたことだろうと。。

ジョアン・ジルベルトがデビューを果たした当時、同じようなギターのバチーダの奏法はさして目新しいものではありませんでした。では何が新しかったのかと考えると、ギターという、様々な音をまるでスポンジのように吸い込みやすい楽器に、自らの声を染み込ませることで一つの楽器として一体化させ、極力感情の移入を抑えた形で表現をした点でしょう。これによってリスナーや聴衆との関係を、よりパーソナルな物にすることが可能になりました。そして、これは当時の時代に合ったサンバの新しい表現方法のひとつだったとも言えるかもしれません。



そんな事も念頭に置きながら、1958年 EMI録音の『Chega de Saudade 想いあふれて』から聴いて見ました。2分足らずの短い録音の中に実にコンパクトにアレンジが施されていて歯切れもいい。それでいて決して単純ではなく、極めて精妙な手法で新しい時代に対する躍動感が表現されています。何度聞いても新鮮に感じます。

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1959年出版の『Chega de Saudade 想いあふれて』の楽譜




ケペルさんが所有する 1959年に出版された、当時の『Chega de Saudade 想いあふれて』の楽譜を回覧しました。曲の題名の下には<Samba Choro>(サンバ・ショーロ)と記載されています。まだ<ボサ・ノヴァ>という言葉がまだ世に定着していないことを物語っています。さらに、レコードの発売からこの楽譜が出版される一年間で、実に40組以上のアーティストがこの曲を録音しているということも記載されています。当時、いかに新しい感覚を備えた曲で、大勢の人に受け入れられたのか伺えます。

次に聴いたのは、1962年にリオの『ボン・グルメ』という場所でおこなわれたライヴ録音。ボサノヴァのムーヴメントが一般に 1958年~1964年 と言われていますがまさにその真っ只中ということになります。ヴィニシウス、トム・ジョビン、オス・カリオカスetc..が一同に会して行われた伝説的なライヴの中からジョアンが歌っている部分を聞きました。アマチュアの録音収集家が録音していたテープが奇跡的に残っていたそうです。録音状態は決して良いとは言えませんが、時のボサ・ノヴァ・ブームの熱を感じるには十分な録音でした。


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『JOAO GILBERTO / EN MEXICO』

アルバム『ゲッツ・ジルベルト』の米国での成功を経て、ボサノバのブームもすでに落ち着いていた 1970年。 軍事政権下となっていたブラジルを離れたジョアン・ジルベルトは、メキシコに住んでいました。私生活ではこのころ妻であったミウーシャとの間にベベウ・ジルベルトも生まれ、比較的に安定した時期だったそうです。やはり米国の西海岸に住んでいたギタリストでプロデューサーのオスカル・カストロ・ネヴィスの協力を得て製作した、『JOAO GILBERTO / EN MEXICO』というアルバムから『ベサメ・ムーチョ』を聴きました。この頃からスペイン語やイタリア語、英語のレパートリーも加わって行ったようです。

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『三月の水』


そして、次に聴く1973年の作品『三月の水』でも、いろいろと試行錯誤の跡が伺えます。素晴らしいグルーヴ感を維持したままで小節を無視した《突っ込み歌い(?)》の妙技、これを確立したのもこの時期と伝えられます。サンバのキュビズム的表現(笑?)はたまたアブストラクチュアとも言えるかもしれません。


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しばし休憩をはさんだ後、このアルバム『三月の水』にも収録されているワルツ『ベベウ』をギターのソロで演奏しました。数少ないジョアン自身の作曲によるものです。アルバムの録音では、暖かい感じなのですがどこかシュールな雰囲気を持った不思議な曲です。子守唄のように、ただ淡々とメロディが流れているように弾くのは結構難しい。。

この1973年の作品『三月の水』(原題はJoão Gilberto)が演奏スタイルの上でも、一つのターニング・ポイントとなるくらい重要な作品であると、ケペルさんも私も意見が一致していました。ギター、歌、パーカッションのみというシンプルな編成でありながら、リズム的なバリエーションと色彩に富んでいる。ギターのインストゥルメンタルがあったり、出身地でもある北東部の音楽を取り入れた曲があったりと、内容的にもとても濃い物です。考えても見れば、フィンガー・ノイズ(ポジションの移動の時に出る雑音)なども殆ど無いしギター演奏者としても優れた技術の持ち主なのです。そういった点でも十分に堪能できます。3曲ほど集中して、続けて聴くことにしました。


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かくして確立されてきた、声とギターの小オーケストラ "João Gilberto"と実際のオーケストラを共時させて見ようという試みも当然の事ながらなされたようです。

クラウス・オガーマンによる 1977年の『Amoroso イマージュの部屋』 と、クレア・フィッシャーによる 1991年の『João ジョアン』から一曲ずつ比較するように聴いて見ました。両者ともジョアン・ジルベルトの歌とギターを先に録音したものに音を加えて行く、という手法には違いは有りません。けれども、その"ジョアン・ジルベルトの音楽"というものに対する理解とアプローチが随分と異なっているので、比べると面白い。

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『Amoroso イマージュの部屋』


『Amoroso イマージュの部屋』では、オガーマンのオーケストラ 対 ジョアン・ジルベルトという性格が強く、壮麗で華麗な音響世界が圧倒的に空間の主導権を握ってしまっている。ギターの持つ浮遊感や透明感、リズムの緊張から生まれるグルーヴなども損なわれてしまっていることが少し残念。時々刻まれる32ビートもしばしば耳障りに感じます。ジョアンの歌が過度に湿っぽく感じられて仕舞うのもそのせいだろうか? ただ、当時の時代を考えて一種のクロス・オーヴァー・ミュッジックと捉えたら、良いのかもしれませんが。。

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『João ジョアン』


『João ジョアン』では、小回りの利く木管とシンセサイザーのブレンド、ストリングスの音圧がアクセントとして効果的に働いている。ドメスティックで複雑なシンコペーションやブレークにも細やかに対応していて、ジョアン・ジルベルトの音楽の襞(ひだ)にしっかりと食い込んでいる感じがします。

両作品を比較して、録音現場での状況の違いや録音機器の進歩、制作コンセプト自体の違いなどを考慮するとしても、やはりジョアン・ジルベルトは根っからのサンビスタなのでそこは空け渡せない。というか、そうで居てほしいと思ってしまうのは私だけだろうか。この2作品の対比から、少なくともデリケートに絡み合っている《声とギター》を引き離すことが出来ないアーティストである、という事実を物語っているようには感じます。

最後には、やはりライヴ演奏を聴きながら締めくくろうということで、1996年にイタリアのペルージャで行われたジャズフェスティバルでの演奏を聴きながら閉会としました。子気味の良い軽快な演奏が目立ちます。心地が良い。多分ノッている日の演奏ですね。



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ジョアンジルベルトの音楽をこんなにも多く、通して聴いたのは今回が初めてでした。

同じスタイルを頑なにずっと続けているアーティストという安直な認識しか持って居ませんでしたが、時期によっては冒険をしていたり、思っていた以上に奥行きのある深い音楽設計をしていたりととても気付かされることが多かったです。あと、意外にもかなり即興的な心持ちで、音楽に臨んでいる人なのだなと驚かされもしました。


それから何よりもジョアン・ジルベルトが、リスナーや聴衆の一人一人との音楽的な対話をとても大切に考え、そうした個々の関係の上に彼の音楽が成り立っていることもよく理解できました。



彼の音楽を作っているのは良質な聴衆でもあるのです。



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次回の『おもしろ講座』、日程が決まり次第にまたお知らせします。



おたのしみに!







[ 2013/03/21 18:44 ] ライヴ・レポート | TB(0) | CM(0)
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(東京都江戸川区南小岩5丁目21−15)
℡ 03-3673-3193
オオタマル7g,他 ※禁煙>

4/22(水)20:00-
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平井タイム・アフター・タイム
※禁煙です。

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【オオタマルg,vo ライヴ】
吉祥寺アウボラーダ
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【オオタマルg,vo ライヴ】
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オオタマル7g,vo 小森慶子cl ねこいちperc ※禁煙>

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